『幸福について』 ショーペンハウアー
著者紹介
本名「アルトゥール・ショーペンハウアー」。
18世紀~19世紀にかけて活躍したドイツの哲学者。
大学時代にカントやプラトンの哲学を学ぶ。
31歳の時に『意志と表象の世界』を刊行するが、発売当時はまったく売れなかった。
大学講師時代は講義の時間を人気のあるヘーゲルと同じにしたため、受講する生徒は少なく失意に陥る。
若い頃は注目を浴びることは無く、晩年に出版した『余録と補遺』がベストセラーとなり一躍有名となる。
インド哲学にも影響を受けており、ショーペンハウアーの思想は仏陀の教えに近いものがある。
本の概要
「この苦痛に満ちた世界で、どう生きていけばいいのか?」を記した本。
私たちは幸福になるために生きているという考え自体、人間生来の迷妄である。
幸せな人生とは苦痛なき人生を送ることであり、最大級の享楽を授かることではない。
したがって、人生から苦痛を取り除くことが「幸せな生活への指針」となりえる。
「人生から苦痛を無くし、心穏やかに生きるための技術」を、あらゆる比喩を用いて論じている。
こんな人におすすめ
学びになった点
アリストテレスは人生の財宝を次の三つ、すなわち外的な財宝、魂の財宝、肉体の財宝に分類した。
ショーペンハウアーはアリストテレスの考えを引用して、人生の財宝を三つに分けました。
この中で最も大事なのは、「その人は何者であるか」です。
富や名誉と違って「本来わが身にそなえているもの」は、誰にも奪われることのない最高の財宝だといいます。
お金は使えば無くなりますし、築き上げた地位も失態を犯せば失われます。
しかし、その人が本来持っている人間性や知性といったものは、自分自身のなかにあり続ける。
その人自身が常にそなえているものこそ、幸福の源泉となるのです。
健康は、ありとあらゆる外的財宝にまさるもので、ほんとうに健康な乞食は病める国王よりも幸福である。
ショーペンハウアーは、「幸福の90%は健康を基盤としている」と言います。
健康であれば、すべてが楽しみの源泉となりえる。
逆に健康でなければ富や名誉、家族友人といった外的要因に恵まれていても、楽しむことができないからです。
富や名誉を得るために働きすぎて、一番の財宝である健康を失うのは本末転倒です。
精神科医の樺沢紫苑さんが書いた『3つの幸福』でも、セロトニン的幸福(心と体の健康)を最重要としており、脳科学の視点でみても正しいと言えます。
もっとも幸せな運命とは、精神的にも肉体的にも過大な悲痛なき人生を送ることであり、最大に活気ある喜びや最大級の享楽を授かることではない。
人間の幸福とは、大きな享楽を受けることではなく、苦痛なき人生を送ることだと言います。
なぜなら、享楽によって得られる幸福よりも、苦痛によって生じる不幸のほうが大きいからです。
享楽は夢や幻のような消極的なもので、どれだけ追い求めても一時の幸福感を得るだけで、すぐに消え去ってしまいます。
それに対して苦痛は積極的なもので、人生から苦痛を無くさない限り、いつまでも残り続けるのです。
苦痛を犠牲にして享楽による幸福を目指すと、かえって不幸になってしまうでしょう。
つまり、幸せな人生とは「あまり不幸ではない、まずまずの人生」だということです。
苦痛なき状態で、しかも退屈でなければ、基本的に現世の幸福を手に入れたと言えるだろう。
この世は苦痛に溢れており、苦痛を免れたとしても、今度は退屈に襲われる。
私たちの人生は、振り子のように苦痛と退屈を行ったり来たりしているのです。
昨今のFIREブームの裏側には、FIRE卒業というものがあります。
FIRE達成して労働から解放されたと思ったら、やることが無くて退屈してしまい、また仕事に戻るのです。
人生から苦痛を無くしたあと、「退屈しないよう、どう生きていくか?」が重要になります。
早くから孤独になじみ、孤独を愛するようになった人は、金鉱を手に入れたようなものだ。
孤独を愛することができる人は、永続的な幸福を手に入れることができます。
幸福が自己の内部にあるため、年齢にかかわらず幸福の源泉を持ち続けることができるからです。
たとえば、人生の楽しみを友人や妻子などに頼ると高齢になって失ったとき、幸福は崩れ去ってしまいます。
それに対して、自分の内部に幸福の源泉がある人は外的要因に左右されず、いつまでも幸せでいられるのです。
アリストテレスの「幸福は自己に満足する人のものである」という意見とも一致します。
資源が豊富で輸入を必要としない国が優れているように、人間も外的要因を必要としない人間が、最も幸福であると言えます。
富は海水のようなもので、飲めば飲むほど、のどがかわく。これは名声にもあてはまる。
お金に対する満足度は絶対量ではなく、相対的な量によって決まります。
どれだけお金を持っていても、自分が求める金額がそれ以上なら満足できないからです。
例えば、私のように年収100万円以下でも満足できる人もいれば、年収1000万円以上あっても満足できない人もいます。
富や名誉に対する欲望は、尽きることがありません。
自分の身分相応に満足して生きる、つまり「足るを知ること」が大事です。
この本を読んで変わったこと
孤独を肯定できるようになった
本書を読んで、「一人でいるのが好きな自分」を肯定できるようになりました。
孤独を愛する人は自分の内部に幸福の源泉があるため、外的要因に頼らず幸せになれるからです。
家族や友人を幸福の要因としている人は、離婚や仲違いしてそれらを失ってしまうと、幸福は消え去ってしまいます。
一人でいるのが好きな人は幸福が自己の内部にあるため、外的要因に左右されず失われることはありません。
昔から誰かといるより一人でいるのが好きで、「みんなと仲良くできない」ことが1つの悩みでしたが、「一人でいてもいいんだ」と孤独を肯定できるようになりました。
お金や社会的成功よりも、健康を大事にするようになった
富や名誉といったものより、健康が一番大事です。
どれだけ富や名声など外的要因に恵まれても、健康でなければ幸せを感じることはできないからです。
ショーペンハウアーは「外的なもの(富や名声)を獲得するために、内的なもの(健康)を失うのは愚の骨頂である」と指摘します。
いまの日本は働きすぎて、過労で倒れたりうつ病などの病気になる人が多いですが、お金や他人の評価のために健康を損なうのは間違っています。
心身の健康こそ、もっとも大事にすべき財産なのです。
自分にとっての幸せが、より明確になった
これまでぼんやりしていた「自分にとっての幸せ」が、より明らかになりました。
私は以前から、「やりたいことをやるよりも、やりたくないことをやらないほうが大事」だと考えていましたが、その理由をうまく言語化できずにいました。
ショーペンハウアーの「幸福とは苦痛がない状態であり、喜びや享楽を授かることではない」という考えに触れて、「快楽で得られる幸福は、苦痛によって生まれる不幸に劣る」ことが分かったのです。
つまり、どれだけやりたいことをやっても、人生にやりたくないことが残っている限り幸せにはなれません。
たとえば、週末に友人や恋人と遊びに行って楽しい時間を過ごし、「ああ、なんて幸せなんだろう。最高の人生だ。」と、幸福を感じます。
しかし、明日の仕事のことを考えると「嫌な仕事をあと何十年もしないといけないなんて、なんて不幸な人生なんだ…」と、それまで感じていた幸福は吹き飛んでしまうでしょう。
幸福は苦痛と共存することはできないのです。
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